研究紹介
システムデザイン研究とは
システムデザイン研究とは、ふたつの大きな要素の掛け算的研究です。
「システム」、「デザイン」のふたつが大要素です。
◇システム
世の中全てのコト・モノはシステムとして捉えることができます。そしてシステムは、大きくふたつに分類できます。ひとつは「機能・目的を持つシステム」、もうひとつは「機能・目的を持たないシステム」です。
自然界には様々な、そしてたくさんの機能・目的を持たないシステムが存在します。これらは、我々がデザインすることができないシステムです。我々がデザインすることができるシステムは、機能・目的を持つシステムです。我々は、機能・目的を持たないシステム(自然現象)の影響の基で、多くの機能・目的を持つシステムをデザインし創り出してきました。現代ではこれらのシステムが複雑に関係し、より大きなシステムを形成しています。
これからのシステム研究では、複雑化、膨大化するシステムを把握・認識したうえで、研究対象となる下位のシステムを追究する必要があります。また、下位のシステム研究から大きな上位のシステムを追究することも必要となります。つまり、森から木を見る、木から森を見る、という双方のアプローチが必要です。
◇デザイン
英語で「design」の意味を調べると、「設計」、「設計する」、「意図する」、「計画する」、「デザインする(洋服など)」、など多様に使われています。これらを見ると、「design・デザイン」という言葉には、ある機能を技術などで実現するためのデザインと、人の感性に訴えるためのデザインのふたつの種類のデザインがあると言えます。すなわち、「デザイン」という言葉はふたつの意味を持っているわけです。そしてそれらを、「機能設計」と「感性デザイン」と呼ぶことにします。
一般の方々が「デザイン」という言葉を聞いた時には、洋服のデザインやグラフィックデザインといったデザインを思い浮かべるでしょう。これは、デザイナーが、人々の感性に訴えるデザインを行って、意匠、装飾、形態の「デザイン」をしていると考えるからでしょう。一方、機械などの設計を行っている人が「設計」という言葉を聞いたら、新しい機能を持った機器の設計、高品質な機械の設計、などを思い浮かべます。
このように「デザイン」は、「機能設計」と「感性デザイン」とに分けて考えることができるのです。
上記の「システム」と「デザイン」の考え方から、システムデザイン研究とは、「研究対象となるシステムを包含する上位のシステムや関連するシステムを把握・認識したうえでの、機能設計と感性デザインの研究」ということができます。
本研究室では、システムデザイン研究の中で、コトあるいはモノ+コトのシステム、つまりサービスシステム、モノ(注1)+サービスシステムの機能設計と感性デザインの研究を行っています。(注1:Product・製品だけではなく、全ての有形物を対象とします)
サービスシステムの機能設計と感性デザイン
サービスシステムが提供する顧客価値は、交換価値、利用価値、経験価値の合計値です。交換価値は経済的・金銭的価値です.利用価値はサービス商品の機能による提供される価値です.経験価値の中には,文脈価値と感性価値があります。文脈価値はサービス商品の機能の提供のされ方であり,機能提供・手順の価値と言い換えることができます.交換価値、利用価値、文脈価値は、機能を提供する過程で顧客に提供される価値であり、これらは顧客が意識的・論理的に評価する価値と言えます。
もうひとつの価値、感性価値は,顧客の感情に訴える価値であり、人の本能的な部分と顧客個人のそれまでの知識や経験によって構成されている記憶を基に,無意識的・直感的に評価される価値です。そして,感性価値が高い場合、顧客は支払うコスト(価格)を問題にしない傾向があります。
このように、サービスシステムが提供する顧客価値は、顧客が意識的・論理的に評価する価値と無意識的・直感的価値に評価される価値で構成されており、前者は、そのサービスで提供される「機能価値」、後者は「感性価値」と言えます。
サービスシステムの設計においては、交換価値、使用価値、文脈価値を提供する「機能設計」と、感性価値を提供する「感性デザイン」が必要になります。
本研究室では、これまでに多くのサービスシステムの機能設計に関する研究を進めておりますが、サービスシステムの感性デザインに関する研究はあまり進んでいません。機能設計では、設計の対象とする機能表現の中の修飾表現を具体化することによって、顧客セグメンテーション・ターゲッティング、プロセス、などを設計するわけですが、感性デザインでは、修飾語が顧客個人の知覚に直接訴える何かが必要になります。例えば、「上品で優しい○○」と言われたときに、機能設計では「上品」と考えられるモノやコトをリストし、「優しい」とはどうすればいいのか、を考えそれらを組み合わせてシステム設計を行います。しかし、機能設計で創られたシステムにたいして、「上品で優しい○○」と感じない顧客が存在します。この時、その顧客にどうやって「上品で優しい○○」と感じてもらうか,を考え,そのシステムをデザインするのがサービスシステムの「感性デザイン」ということになります。
そして「機能設計」+「感性デザイン」の総合的価値が顧客の価値となり、顧客に満足を提供します。本研究室では、「機能設計」+「感性デザイン」の総合的価値を提供するシステムデザイン研究を、進めています。